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FP長谷尾「一日一言」米国の自動車王・・・

米国の自動車王・・・    

米国の自動車王、ヘンリー・フォードによると、「老人とは学ぶことをやめた者」らしい。この定義に従えば、奈良県立大和中央高校(夜間)2年の米田豊満(よねだ・とよみつ)さんは73歳の今も青年だ▲大阪府豊中市に生まれた。父が事業に失敗し小学2年で奈良県に移る。「口では言えんほどの貧乏」で、学校から教材費を持って来いと言われるのがつらかった。6年生で母が他界。住み込みで働くしかなく、中学に通えなかった▲「同じ年ごろの子が学生服を着て通学するのがうらやましゅうてね」。紳士服の仕立てや製靴の職人として、がむしゃらに働いた。ただ、他者との付き合いは苦手なままだった。「小学校卒」のコンプレックスが消えなかったからである▲子育てが一段落し、経済的にも余裕ができた。2016年夏、思い切って奈良市立春日中学夜間学級に入った。67歳の米田さんはクラスで一番若かった。翌春から3年間、生徒会長を務め、20年に高校に入学。友人はどんどん増えた▲授業は午後5時半から9時まで。飲みにも行けない。今週は後期の期末試験が続き、結果の発表は週明けだ。「社会科は何とかなったんちゃいますか。問題は数学。素数とか何とか、ややこしいです」と米田さんは笑う。2年後は大学受験である。「人権について学びたいんですわ」▲仏詩人のアナトール・フランスは言っている。「もし私が神なら、青春を人生の終わりにおいただろう」。小学生と中学生の孫娘が1人ずつ。おじいちゃんは今が青春である。

(毎日新聞 余録  2022.02.12)