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FP長谷尾「一日一言」三井の商法

日経新聞 あすへの話題  2022年1月17日

三井の商法 三井不動産社長 菰田正信

今年は我々三井グループの祖、三井高利(たかとし)が生まれて400年の節目の年だ。来年は江戸に呉服店を開いて350年になる。現代でも経営の要諦と考えられている顧客志向を、江戸の世で実践したのが三井高利ではなかったか。

もともと呉服は武士の着るもので、庶民には手の届かないぜいたく品だった。大名屋敷を回って注文をとってから作るオーダーメイドで、手間もかかり生地のロスも多い。支払いは盆暮れの掛け売りで、金利がかかるし未収リスクもある。しかし時は元禄になろうとするころ。世の中は成熟し、庶民もよりよい衣服を求めていた。

高利はそこで発想を転換する。既製品の呉服を店頭で現金払いで売り、生産・流通・課金を抜本的に合理化し、大きくコストダウンした。生地についても従来の絹や麻に加え、出身地である伊勢松阪でも生産していた木綿を使い、価格や品質面でより消費者の嗜好にマッチするようイノベーションした。呉服は庶民に手の届く商品となり、三井越後屋は大繁盛することとなる。

既製品商売を可能にしたもうひとつの立役者は、現代でいうところのマーケティングである。松阪は伊勢神宮に近く、お伊勢参りに訪れる人々の服装の流行(はや)りを知ることができた。最近木綿を着ている人が増えたとか、今年流行の模様はこんな感じだとか。三井高利はこういったことを、ものづくりに活(い)かしていたわけである。

ビジネスに必勝法はないが、唯一それに近いものがあるとすれば、顧客のニーズをしっかり押さえるということなのだろう。時空を超えて、ぜひ見習いたいものである。